東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1044号 判決 1982年2月25日
控訴人 佐々木重機販売株式会社
右代表者代表取締役 佐々木義廣
右訴訟代理人弁護士 山田正武
被控訴人 株式会社伊藤建材
右代表者代表取締役 伊藤清二
右訴訟代理人弁護士 鈴木俊二
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(控訴人)
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(被控訴人)
主文同旨
第二当事者の主張事実
(請求の原因)
一 被控訴人は、昭和五四年二月一日訴外浜松ディーゼル株式会社(以下「浜松ディーゼル」という。)から原判決添付目録記載の建設機械(以下「本件機械」という。)を買受け、その所有権を取得した。
二 本件機械は、昭和五四年八月五日静岡県袋井市内の工事現場で、訴外甲野太郎(以下「甲野」という。)によって盗まれた。
三 控訴人は、本件機械を占有し、被控訴人の所有権を争い、その引渡しを拒んでいる。
四 本件機械を他に賃貸するときは、一ヶ月金三〇万円の賃料をあげうるものである。
五 よって被控訴人は控訴人に対し、被控訴人が本件機械の所有権を有することの確認と右機械の所有権に基づきその引渡し並びに本件訴状送達の翌日である昭和五五年三月九日から右引渡しずみまで一ヶ月金三〇万円の割合による賃料相当の損害金の支払いを求めるため、本訴請求(昭和五五年二月二三日訴え提起)に及んだ。
(認否)
第一、二項は不知、第三項は認める。第四項は否認する。
(抗弁)
一 控訴人は、昭和五四年八月二二日ころ本件機械を占有する訴外株式会社山大(以下「山大」という。)から右機械を代金四〇〇万円で買受け、その引渡しを受けた。
よって、仮に山大が本件機械の所有者ではなかったとしても、これにより控訴人は、本件機械を即時取得した。
二 仮に、本件機械が盗品であったとしても、山大は、本件機械と同種の物を販売する商人であったから、控訴人は、本件機械の代金四〇〇万円の弁償を受けなければ、右機械を返還することはできない。
(認否)
否認する。
(再抗弁)
一 控訴人は、中古品を含む重機及び車両の販売業者であるから、建設機械の取引に当っては、その所有権の帰属につき、譲渡証明書の交付をうけ、あるいはメーカーに照会する等してその確認をすべき注意義務があるのに、本件機械の取得に際し、これを怠ったものであり、控訴人が本件機械の取得に先立ち、甲野が他より盗んだ建設機械三台をその所有権の帰属につき何らの調査もすることなく取得し、他に転売していること等と併せ考えるときは、控訴人は、山大が本件機械の所有者でないことにつき悪意であり、仮にそうではないとしても、山大を所有者と信じたことには過失がある。
二 仮に、山大が本件機械と同種の物を販売する商人で、控訴人が本件機械を山大から代金四〇〇万円で買受けたのだとしても、控訴人は、古物商の営業許可を受けたものであるから、古物営業法第二一条により、本件機械を無償で返還しなければならないものである。
(認否)
一は否認する。二のうち、控訴人が古物商の営業許可を受けていることは認めるが、本件機械の返還義務があることは争う。
古物営業法は、取締法規であって、同法二一条は、民法一九四条の特則をなすものではない。
第三証拠関係《省略》
理由
一 《証拠省略》によれば、
1 被控訴人は、昭和五一年七月浜松ディーゼルより本件機械を代金一三二〇万円で買受け、昭和五四年二月一日その代金を完済して、右機械の所有権を取得したこと、
2 被控訴人は、静岡県袋井市内の宅地造成現場において、本件機械を稼動させていたところ、昭和五四年八月五日機械を盗まれたこと、
が認められ、右認定に反する証拠はなく、被控訴人が本訴を提起したのが昭和五五年二月二三日であることは、本件記録により明らかである。
二 《証拠省略》によれば、控訴人は、中古品を含む重機、車両等の販売を業とするものであるところ、昭和五四年八月二二日土建業者である山大から、その占有にかかる本件機械を代金四〇〇万円で買受け、その引渡しを受けたことが認められる。
三 控訴人は、本件機械を即時取得したと主張するが、右機械が盗品であったことについては、先に認定したとおりであるから、右主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。
四 控訴人は、仮に本件機械が盗品であったとしても、控訴人は、本件機械を同種の物を販売する商人である山大から代金四〇〇万円で買受けたから、被控訴人は、その代価を弁償すべき義務があると主張するのであるが、山大が土建業者であることは先に認定したとおりであって、山大が更に本件機械と同種の物を販売する商人であることについては、これを認めるに足る証拠がないのみならず、控訴人が古物商の営業許可を受けたものであることは当事者間に争いがないから、民法第一九四条の特則である古物営業法第二一条により、本件機械を無償で返還すべき義務あることは明らかである。
五 控訴人が被控訴人の本件機械に対する所有権を争い、その引渡しを拒んでいることは、当事者間に争いがない。
従って、控訴人は、被控訴人の本件機械についての使用収益を妨げているものというべきところ、《証拠省略》によれば、本件機械を他に賃貸するときは、少なくとも一ヶ月金三〇万円の収益をあげうるものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
本件訴状が昭和五五年三月八日控訴人に送達されたことは、本件記録により明らかである。
六 以上によれば、被控訴人の本訴請求はすべて理由があり、これを認容した原判決は相当であるから、本件控訴は失当としてこれを棄却すべきものである。
よって、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉田洋一 裁判官 松岡登 野崎幸雄)